02.米国精神医学会(APA)が定めた診断分類「DSM」
2022年、米国精神医学会(APA)が2013年に診断分類「DSM-5」刊行から9年ぶりに改定されたのです。「DSM-5-TR」と言うものです。(邦訳は2023年)
まずDSMとは、精神障害の分類の目的でアメリカ精神医学会から出版された書籍を言います。
DSMの原型となったのは、ハリー・スタック・サリヴァンによる「徴兵選抜局医事通信1号」です。これは第2次大戦中に徴兵選抜を効率的にするために作成されたものでした。
DSMは過去の世界大戦を基に作られた?
第1次世界大戦で大量の戦争神経症が発生した反省から、第二次世界大戦では徴兵選抜の段階から精神医学的介入が求められました。米国陸軍の依頼を受けてハリー・スタック・サリヴァンは1940年に一般医向けの精神医学的スクリーニング法を開発し、これを徴兵選抜局に提示し、サリヴァンはこれを1941年に改訂し、43年にはメディカル203と名付けられて陸軍技術告示として正式に刊行されました。これが戦後のアメリカで精神医学的な分類の基礎となるのです。戦後、精神疾患自体の概念に多くの課題が存在していくにつれ改定が続き、1980年DSMの第3版(DSM-Ⅲ)より、明確な診断基準を設けることで、精神科医間で精神障害の診断が異なるという診断の信頼性の問題に対応するようになります。
DSM-Ⅳ、特にDSM-Ⅳ-TR(テキストの改訂版)は、DSM-Ⅲでは主要な診断名の有病率が著しく高く報告されるようになり、過剰診断を促していると批判されたため、DSM-Ⅳでは7割以上の診断基準に「著しい苦痛または社会的、職業的、その他の領域での機能の障害を引き起こしている」という項目を追加されました。しかし、その後も主要な製薬会社は強力なマーケティングを展開し、アメリカでは精神障害の罹患率が毎年上昇し続け、注意欠陥多動性障害が3倍、自閉症が20倍、子供の双極性障害が40倍、双極性障害は2倍となり、伴って処方箋医薬品による死亡が違法薬物によるものを超えることとなったのです。
2010年には国連子どもの権利委員会が、ADHDが薬物治療されるべき障害とされていることを懸念し、診断数の監視や調査研究が製薬会社と独立して行われるようにと提言しています。
経済協力開発機構(OECD)は、抗うつ薬の使用の上昇が適切であるか懸念が持ち上がっているとして、過剰処方が指摘されています。
そのため、次のDSM-5において定義が変更されることが判明した結果、APAに対して根拠に基づく医療の方法を用いて再調査を行うべきという50の精神福祉団体による請願が出されました。一方で、APAはそれに関して声明を出していません。
最新のDSM第5版のテキスト改訂
DSM-5は2012年12月1日に、アメリカ精神医学会(APA)の理事委員会にて承認され、2013年5月18日に公開されました。 DSM-5は広範に診断が修正され、一部では定義を広げ、他の場合には定義を狭めています。DSM-5は、20年ぶりとなるマニュアルの主要な改定で、ローマ数字方式は、改定番号を明確にするために中止されています。第5版における大きな変更は、統合失調症の亜型の削除案でした。改定作業中に、APAのウェブサイトは、見直しと議論のためにDSM-5のいくつかの一節を定期的に掲載していました。邦訳されたDSM-5では、個々の診断名の「障害」という部分を「症」にするという議論がありましたが、過剰診断を招く可能性があるためそれぞれの診断名が併記されることとなったのです。
DSM-5の改訂版となる「DSM-5-TR」が2022年3月に発行され、診断基準の更新やICD-10の対応などが行われました。日本語訳は2023年9月に発行され、「disorders」の訳が「障害」から「症」に変更されました。このDSM-5-TR日本語訳は、2023年9月時点で未出版のICD-11日本語版の訳語を部分的な例外を除き踏襲しています。
現在のDSMは、『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』が出版されています。
詳しくは、ハートクリニックWebサイトにて、解説されております。
こころのはなし ~DSM-5-TRの変更点について~
ここからは私大宮 樹が、この「障害」について記載するものは、医学的に用いられる「障害」、加えて「難しい『適応』」について記載しております。「障害」という言葉にある表記や用語を誤解しないためにあるからです。

